【コラム】虫に全任せする頭骨標本づくり②(薬液処理→完成まで)

虫に全任せする頭骨標本づくり②(完結編)

前回の記事(https://fukuoka-wanashare.site/column3/)で無事に白骨化させた頭骨を、
今回は標本として仕上げていく工程を記録していきます。
「テン」という小動物の頭部のみを標本化するため、サイズに合った薬品や組み立て方法を紹介します。
中〜大型の骨格になると、もっと効率的でお金のかからない方法がありますので、ここではあくまで“ミニマムなやり方”としてご覧ください。

工程

①徐肉(※前回実施済み)
②洗浄(※前回実施済み)
③脱脂
④漂白
⑤乾燥
⑥組立

以上の6工程ですが、①②は前回の記事で完了しているので、今回は③からスタートです。
劇薬ではありませんが、今回はいろいろと薬液を扱うのでゴム手袋等で手先の保護を忘れずに。

脱脂

ヤバいインテリアみたいですが、これはこれで雰囲気がある

骨にしみ込んだ脂肪分を抜き取る工程です。
ここを端折ると、完成後しばらくしてから脂肪が奥から染み出してきて、骨が黄色くなってしまうことがあります。
その動物がどれくらい脂肪をため込んでいたかによっても変わるので、多少黄ばむ程度は気にしない方は、スキップしても構いません。

使用する薬品は「アセトン」ですが、ここでは代用品として有名なマニキュアの除光液を使います。100円均一で手に入るものでOK。
いろいろな成分が混ざっている製品もありますが、これまで特に問題が起きたことはないので、できるだけスクラブなどが入っていない、シンプルなものを選べば大丈夫です。

ただし、アセトンフリーの商品も多いので、必ず成分表をよく確認して購入しましょう。
また、着色タイプのものもありますが、使用経験がないため結果は不明。ここまで時間をかけてきた作業なので
変なところでケチらず、無色透明のものを使うことをおすすめします。

やることはシンプル。
除光液に頭骨を浸け込むだけです。揮発性の液体なので、ジャム瓶などの密閉できる容器がベスト。
浸ける期間については、「2週間〜」と紹介している媒体もありますが以前別の動物で試した際、
我慢できずに4日で取り出したことがありました。結果は特に問題なし。

経験談として、アセトンは強い溶剤なので、換気をしないと頭痛がします。
さらに引火性があるため、保管は火の気のない冷暗所に置くように。

また、使用済みの液は再利用できません。脂肪分が染み出しているためです。
処分する際は排水溝には流さず、新聞紙等に吸わせて廃棄してください。

ちなみに今回は3日間漬け込んで終了。待ちきれませんでした...
液が黄色く変化することもありますが、今回は色の変化もほとんどなく終了。
除光液に含まれていた香料のせいか、若干フローラルな香りがします。取り出したら水洗い・乾燥をして、この工程は完了です。

便利グッズ紹介

洗浄や乾燥を繰り返していくと、歯が抜け落ちてくることがあります。
アセトン漬けの時点でも、いつの間にか何本か抜けていました。
小動物の歯はとても小さく、うっかり流したり、紛失したりしやすいので、流し用のストッキングネットが活躍します。
できるだけ目の細かいものがベスト、今回は以下のように3つに分けて管理。

  • 頭骨
  • 下あご
  • 抜け落ちた歯

本来は脱脂の段階でネットに入れておきたいところですが、アセトンがネットを変質させる可能性があるため、使用は控えました。

漂白

オキシドールに浸けます。
品揃えのよい100円均一でも売っていますが薬局で購入したほうが確実。価格も大差ありません。
ただし骨を分解してしまうため、小動物の骨は短時間で引き上げるようにしましょう。
アセトンと違って、気泡を出しながら反応するので、密閉容器は使用しない方が安全です。

うっかり密閉していたら、開けるときに「ブシュッ」となりました…。

反応し気泡が発生する様子

今回は様子を見ながら1時間ほど浸けてから取り出し、水洗・乾燥。
これで薬液処理はすべて完了です。一目瞭然くらいには漂白されます。

組立

抜け落ちた歯や、割れた下あごを接着して復元します。
骨同士の接着には瞬間接着剤、歯の固定には木工用ボンドを使用しました。

瞬間接着剤だけだとうまく接着できない場合、ティッシュペーパーを挟むと良い感じに固まります。

なお、歯はあえて固定せず、抜き差しできるようにしておくと構造の観察にも役立ちます。
ですが今回は教材として運搬する予定が多いため、紛失を避けてすべて固定しました。
個人的にはここが一番の難関でした。特に前歯の歯列がすべて抜け落ちていたので総当たりで復元します。
どう考えても逆向きだろと思う場所にスポっとジャストフィットしたり、
こんな場所にこんな長い歯が収まっていたのか...と驚かされるばかりです。

抜き差しして構造を観察する

  • 取り掛かる前の状態で全体的に写真を撮っておく
  • つまようじ、ピンセットが大活躍
  • 綿棒も大活躍(はみ出たボンドを拭き取るのにちょうど良い)
  • 歯や骨を見失わないように黒い布や紙の上で作業する(米粒以下のサイズがたくさんあります)
  • 接着は最後の最後

アドバイスとしてはこんなところでしょうか...

最難関だった前歯6本、30分格闘の末ようやく定位置に。歯並びがキレイ

完成

開口の様子。何度も書きますが歯が全て揃っているのが本当に嬉しい。

虫任せの徐肉を含め、およそ2週間ほどで完成となりました。

ここまで書いておいてなんですが……
薬液処理が面倒な方は、虫の分解後そのまま自然に任せるのも手です。
放置しすぎると骨ごと分解されてしまいますが、微生物や天候(雨・紫外線)の力で完全に白骨化します。

左から●タヌキ ●今回作成したテン ●イタチ
サイズは違ってもシルエットが似ているのが面白い。

参考までに、比較用として置いてあるタヌキの頭骨は、以前山中でほぼ完全な状態で拾ったもので、
水洗いしかしていませんが、匂いもなくきれいに白骨化していました。
時間はかかるし、細かい部分を紛失しやすいですが、ひとつの選択肢として覚えておいて損はありません。

まとめ

いかがだったでしょうか。
全体の手順自体はとてもシンプルですが完成した時の達成感はかなりのもの。
骨の構造が嫌でもわかるようになるので剥皮・解体の時にいつか役立ちそうです。
狩猟、解体後骨は廃棄しがちなので休猟時期にできることの一つとしてご提案させてください。
狩猟鳥獣以外でも魚やフライドチキンの骨でも試せる方法なので自由研究のネタにもなるかもしれません。

飾り方次第でこんな素敵な雰囲気に。

(文責:土肥健人)